S・S・S





シューティングスター
シンドローム







純次郎





イントロダクション

深夜0時。
黒い夜空。
閑静な住宅街の中にぽつねんと存在する小さな丘。
ちっぽけな丘。
そのちっぽけな低い丘の上には人工的なものは何一つなく、短い草と暗闇が交わって辺り一面を、光を全く伴わない深すぎる緑色に染めている。
そこは、この世界のどこからも取り残されているかのようにしんと静まり返り、そして、一人佇む少年を除いて誰もいなく、何もなかった。
少年は夜空を仰ぎ見ていた。
見上げる夜空には幾筋もの流れ星が流れ、黒い夜空に引っかき傷をつけては消えていく。
少年はまるでその流れ星を全身に浴びるかのようにゆっくりと両手を広げた。
今夜は何十年に一度しかない流れ星が多い夜。
少年の瞳はその流星群に釘付けになっていた。その瞳は、美しい自然のアートに心を鷲掴みにされているとか、そういった次元ではなく“狂気”そんな言葉が似合っていた。
少年の心の奥底からこんな言葉が溢れてくる。
“……この流れ星のようになりたい”
 止め処なく溢れてくる。
“……流れ星のように……流星のように……流れ星のように……流星のように……流れ星のように……流星のように……流れ星のように……流星のように……流れ星のように……流星のように……流れ星のように……流星のように…………”
 ――そして、シンプルなことだったんだ、と理解した。

翌朝、目を覚ました少年はいつものように淡々と学校へ行く支度を済ませ食卓についた。
食卓には父親、母親、妹が座っている――いや、座らされているといったほうが表現は正確だろう。なぜなら少年の家族は皆、あらぬ方向を見つめ、その顔からも、その目からも、その肌からも生を意味する“色”を失っていたから……、そして、そのことを一層引き立てるような赤黒い血液が全員の首筋から流れているから。
その血液も、もうすでに固まり始めている。
……そう、少年は昨夜、流れ星を眺めた丘から帰るとすぐに眠りについている家族全員の首を次々とお気に入りのナイフで掻っ捌き、その後、食卓に座らせたのだった。
そんなおよそ日常とはかけ離れている部屋で、少年は何ごともないかのように同じテーブルに腰掛け、フレークにサラダという栄養バランスの取れた朝食を静かに食べていた。
朝食を淡々と済ませ家族の死体に一瞥もくれることなく玄関に向かい靴を履いた。
呟いた。
「……ここからだな」
小さい声ながら確かにそう呟いた。
そうなのだ。これは流れゆく星々を見て生まれた少年の決意の第一章、つまりこの殺戮はスタートにすぎなかったのだ。
少年、トーマはまだ十七歳の高校生だった。



























参加者サイド・1


仕切りの見当たらない大きなガラス越しにキラキラと輝いているかのような光が降り注ぐ。
今日の青空には雲一つ存在しない。
遠く離れた宇宙にぷかぷか浮かぶ太陽から、まさに光速でやってきた光が適度に分散され、地球に反射し、この空をどこまでも隙間なく真っ青に染めているんだろ? そのくらい俺だって知ってるさ。
まったくメルヘンな青色だ。……もう馬鹿みたいな青空だ。
気温だって湿度だって六月のわりには涼しく過ごしやすかった。きっと、
“今日は清々しいね?”
なんて彼女が言って、
“そうだね、でも君の笑顔のほうが何倍も清々しいよ! 俺たちもう付き合って十年目だね。うん、結婚しよう!!”
なんて彼氏が返して、
“嬉しい。その言葉待ってたの……”
なんて言って彼女が涙ぐむような、そんなやりとりが、この青空の下のどこかしこで行われていることだろう。そうに決まってる。それだけ爽やかな空なんだ。
しかも、今は平日の真っ昼間。無駄な人ゴミも少なく尚更そう感じてしまう………はずなんだが、対照的に俺の気分はどんよりと重たい雲に覆われて、しかもその雲の中で、雷がゴロゴロのピカピカのピシャッってな感じだった。
つまり最強に最悪で最低な気分。
いつもなら教室で自分の席に座り授業を受けている時間にも関わらず、俺は今一人でCD屋なんかに来て「パンクコーナー」というプレートがぶら下がった場所で音楽を視聴しながら外を眺めている。
最強最悪最低な気分のせいで、どうしても学校に行けなかったんだ。だって、もしもこんな気分のまま学校なんかに行ってしまったら下手をうってしまうと死人が出てしまうかもしれない……、いや、俺がってことね?
装着している所々ほころびの目立つ黒いヘッドホンからは陳腐な愛の言葉を恥ずかしげもなく流行のリズムに乗せた歌が流れてきている。なんでも大好きだけど別れなければならないそうだ。その方がお互いのためなんだってさ。……はっきりいってこの手の歌には全く持って納得いかない。だって本当に大好きだったら別れないで努力するだろ? その努力を惜しむくらいなら元々大した感情じゃないんじゃないのか?
いや、まぁ、別にどうでもいいんだけどね……。
「はぁ〜……ったく、くだらねぇなぁ……」
自分で選んで聞いているCDにも関わらず、そのおかげでさらに気分を害されてしまった。これぞ不条理……でもないね。
「……はぁ〜あ」
いったい今日何度目のため息だろうか? まったく嫌になる。
俺だってもちろんこんな気分は嫌だよ。だからさっきから、
“まったく、しっかりしやがれ、柏原勇一!!”
なんて、何度も何度も自分に言い聞かせているんだ。だけど、この苛立ちは全くと言っていいほど消えてくれないし、小さくすらなってくれない。むしろそんなふうに注意してくる自分自身にも腹が立って
“うるせぇイラつくから黙ってろ!”
と言い返してしまう始末。完璧な悪循環。苛立ちの螺旋階段。
そもそも、どうしてこんなにイラついているのか? いやいや俺だってそこまで馬鹿じゃない。しっかり考えたさ。……でもそれが自分でもさっぱりわからなかったんだ。まぁ、そのことがこの苛立ちを解消できない最大の原因になっているんだな、ということは理解できたけどね。
誤解のないように言っておくけど普段の俺はどちらかというと、まぁ、自分で言うのもアレなんだが明るく朗らかなほうだと思う。よく笑い、よく食べ、よく寝る。もちろん授業中にノートにびっしりと訳のわからない歌詞を書き連ねもしないし、必要以上に本も読まなけりゃ映画だってそこまで詳しくはない。当然子猫を殺したいなんて感情は芽生えた事すらないさ。
友達だってわんさかいる。悪いことだってちょこっとはする。一昨日だって友達と夜中に小学校に忍び込んで大玉転がし用の大玉でサッカーしたよ。大玉を蹴るたびものすごい音が鳴るもんだから近所からの苦情でパトカーがやってきた。すぐさまチャリンコで逃走。見事逃げきってやった。
今はいないけど女の子とだって何人かは付き合ったことはある。エロいことだって人並みには好きだ。子供の頃に母親が知らない男と寝ているところを見てしまった、なんてトラウマもないからね。おっぱいだったら小さかろうが、デカすぎようが、リスペクトできる。……宣言撤回、人並み以上に好きかもしれないな。
まぁ人前で必要以上に明るくしてしまうとこもあるけど、その辺りを別にすれば極一般的な男子高校生だと思う。下手したら一般よりも、ちょい上かもしれない。
……しかし、一つだけ大きなウィークポイントを抱えている。
そう、今みたいに、極稀にだが別に何が起きたというわけではないのに酷く苛立つことがあるんだ。こうなってしまうと、本当に他愛のない誰かの発言が妙に気になったり、前を歩いている奴の歩き方がなぜか癇に障ったり、尺に触れたりと、そんな性質の悪い状態に陥ってしまう。挙句の果てには自分が生きていることにすらイラついてしまうことだってある。簡単に言うと全てが嫌になるんだ。……しかも理由は何もない。これがさっき俺の言った唯一のウィークポイント。アキレス腱。超アキレス腱。
こうなってしまう度に何か手近なもの――夜の校舎の窓ガラス的なものって言うとわかりやすいかな――を破壊してやりゃ少しは気が晴れるかなぁ、だとか思うんだが、いまいち実践できないでいる。沸き起こる破壊衝動を、起こる度に自分で押さえ込んでしまうところがあるんだ。だってかっこ悪いだろ? そう、俺は“感情のままに動く”ってことがなんかダサくて嫌いなんだ。人に行動から感情を推察されるのも大嫌いだし、もちろん“お前はこういう奴なんだな”なんて断定されるのはまるで論外だ。
そんな性格自体は“落ち着いていて偉いね!”なんて、聞く人によっては悪いことではないようにとってくれるかもしれないけど、実際そんなことはない。怒りや悲しみを隠しているだけだからね。……ぶっちゃけ溜まるんだ。
特にこの手の苛立ちに襲われているときなんて、もうどうしようもなくなり途方にくれちゃう。だってそれは当然押さえ込むことで消えるような類のものではないからさ。……結局、蓄積した苛立ちはどこにも向かえず体の中を右往左往を繰り返して、びっくりするほど大きくなって、そして“リキヤ”より強くなっていってしまうんだ。リキヤだよ? そりゃ勝てるわけがない。今のところ全敗。引き分けすらない。
……全く難儀な性格をしてると自分でも思うね。
とはいっても、いつもならそんなものも今日みたいに学校をサボって誰とも会わず、一人で町をプラプラとうろついて気分転換でもすれば、消え去るとまではいかなくとも、気にならなくなる程度には小さくなるし、いつしか忘れてしまえる。刹那的ではあるけどね。
だけど、今日のコレはちょっと性質が悪すぎるようだ。ここ最近この類の波がなかったから油断していたようだ。一向に回復の兆しすら見えてこない。
ヘッドホンからは曲目が変わっても相変わらずくだらないアップテンポの恋愛賛歌が流れている。
「――チッ、こいつらホントにくだらねぇな……」
叩きつけるようにヘッドホンを元にあった場所に戻した。
「何が“愛し合って〜”だよ。お前ら相手なんか誰でもいいくせによ……」
カップルがたくさんいる店内で周りの目も気にせずにそんなことを声に出しながらゆっくりとCD屋を後にした。独り言でも言わないと本当にどうかしてしまいそうなほど苛立ってしまっているようだ。
……マズいなこれは。
外に出ると、やはり清々しさが五感から伝わってきた。これは戦後最大の清々しさかもしれない。しかし、当然そんなことは今の俺にはなんの意味もない。むしろ、空の青さ、街路樹の葉の隙間からこぼれて落ちてくる木漏れ日、優しく肌を撫でる風、そんな“爽やか”の代表選手たちが俺をさらに苛立たせる結果となった。世の中結果が全て。プロセスなんてものはクソの役にも立たない。実際、俺はこんな清々しさの中で、
“なにも俺の気分がこんなに悪いときに、ここまで清々しくなくてもいいじゃねぇか、嫌味かこら!”
ってな気分だ。……はぁ〜、さてさて、これからどうするか……。
CD屋の入り口で立ち止まりしばし考えてみたが、特に目的もない俺にはいくら頭をひねってみてもやはり答えなんてものは見つけることができなかった。
まぁ、いいか、とりあえず歩くかな。うん適当に歩こう。
「そうだよ、答えなんて一つじゃないんだ」
……いや、口から出た言葉には全く意味はない。
そんな馬鹿みたいなことをぼんやりと思い浮かべながら目的のない俺はあてもなくテクテクと歩くことにした。というかそれしか出来なかった。

“ちくしょう、イラつくな……、あ〜ムカつく”
歩き始めて十数分が経ったが未だに頭からこれらの言葉が一時も消えないでいる。いい加減収まってほしい。心底そう思う。だけど、自発的に治そうと思っても全くその方法が思い浮かばないんだ。どうすることも出来ない。……やはり歩く事しか出来ない。八十年代風に言わせてもらうと「俺は高木ブーだ。まるで高木ブーだ」ってところだろう。
テクテクとまた歩いた。トボトボとさらに歩いた。そのうちに自宅近くの公園にたどり着いていた。
「結局またここか……」
辺りを見回して誰もいないことを確認してから、がっくりと肩を落としまた小さなため息をつく。
目の前に広がる景色はなんてことないただの寂れた小さな公園。本当に取り立てて言えるような特徴はない。錆びたブランコ、低い渡り棒、腐りかけのベンチ、壊れかけのラジオ。……な? 何もないだろ? 人だって滅多に来ない。俺はここに頻繁に訪れているがこの公園の名前だって知らない、というか実際名前があるのかどうかだって疑わしいくらいだ。ちょっとでも興奮できるようなものなんて何一つありゃしない。
だけど、俺は学校をサボったり、やることが何にも無いときにはよくこの公園で時間を潰している。いや、だからといって、こんな公園が好きなわけじゃないよ。単なる時間潰しだ。ただ、誰にも会わずに済むからここに来るだけで、それ以上でもそれ以下でもない。下手したらそれ以下だってこともありえるかもしれない。
まぁ、そんなこんなでこの公園に飽き飽きしていたから中に入る事を少しだけ躊躇した。だけど、一分も経たないうちに結局公園に入ることにした。だって俺には目的がないんだ。選択肢は他に思い浮かばない。
公園の端っこにポツンと設置してある所々ペンキの剥げた腐りかけの赤茶けたベンチに腰を下ろす。そして、胸ポケットからタバコを一本取り出し、吸い口の方をベンチにトントンと軽く打ちつけた。これは中学のころからの習慣だ。いつだかこうすると中身が詰まって美味しくなるとか聞いたことがあった。だからといって、それを信じているわけではない。今ではただの癖。
「……はぁ〜あ、全くつまんねぇ世の中だなぁ」
馬鹿丸出しで晴れ渡った青空を、馬鹿丸出しの顔で見上げながら、ポツリと呟きタバコを咥え、ライターに火を点す。ライターを擦る音にさえ馬鹿にされたような気分だ。そのとき、
「――コラ!! 柏原!! 制服で何やってんだ!!」
後ろから大きな声で注意された。女の声だ。誰だ? ちょっと慌てて振り返ると、そこは同級生の川辺真由が右手を腰に当て、左手で俺を指差し、立っていた。
「へへっ、ビビった?」
真由が腕を下ろしてニッコリと笑う。
川辺真由、真由は俺の通っている高校の二年三組のクラスメイトであり、女子の中では唯一、自然体で話せる友達だ。演技か素なのかはいまいちよくわからないが、天真爛漫だとか、元気印だとか、そんな今は使わないような明るい言葉が似合う奴で、いつでもペチャクチャとうるさく、ちょこまかと動き回っているような女。ちなみに顔が可愛いからか、結構モテるらしい。俺の友達にも真由信者は数人いる。
「ビビったでしょ? ビビったならビビったって素直に言いなさいよ!」
 相変わらずニコニコと笑っている。
「あぁ、ちょっとだけな」
 俺はあえてスカして返す。真由のテンションには付き合いきれないからね。それと焦ったとか感づかれるのも好きじゃないってのもある。なぜって? ……だってダサいじゃないか。
「勇一、まったく学校サボってなにやってんのよ?」
「何って散歩だよ。イッコン、ニコン、サンポン」
「何それ?」
「さぁ、適当に言っただけ。んで真由こそ何やってんだよ?」
「私? 私はちょっと具合悪くて早退したの。授業つまんなかったしね、へへっ」
真由は俺の隣にチョコンと座り、俺の顔を覗き込むようにして、もう一度「へへっ」と笑った。……まぁ確かに顔は可愛い。どうだっていいけど。
俺は真由から視線を外して改めてタバコに火を点け、大きく吸い込んだ。そして、
「どうせ無断だろ?」
 その言葉と一緒に煙を吐き出した。
「まあね。でも、勇一は無断欠席して散歩でしょ? そっちのがダメなんじゃん?」
「いやいや、なんか今日は気分が乗らなくてさ」
「なんか嫌な事でもあったの?」
「ん? 別にないけど……」
「嘘だ! なんかあったんなら言えばいいじゃん。言ったらスッとするかもよ? 悩みは自分で溜め込まずに吐き出すべきだよ! ほら、お姉さんに言ってみなさいよ!」
 真由はなぜか不自然なくらいこの話題に食いついてきた。……暇なんだろうな。こういういう奴なんだ。俺は本当に理由がない、って言おうとしたが、きっと真由はそれでもしつこく聞いてくるだろうということが目に見えていたから、適当な事を言う事に決めた。本当に理由がないということを説明するよりもこっちのがずっと楽だろうとの結論が出たんだ。
「……う〜んと、いやさ、なんだか学校行くのが馬鹿らしくなってな……。ほら、たまに教室でみんなと一緒に授業受けてると自分が何やってるかわかんなくならねぇか? ホントに生きてるのかなぁ〜なんてよ? 今日は特にそんな感じなわけよ」
 適当なことを言ってはみたが実際いつもそれなりに思っていることが口から出るもんだな。
「はぁ〜、勇一はほんっとに子供だねぇ……、そんなの生きてるに決まってんじゃん!」
 真由は手を広げたり、首を振ったりと大げさなジェスチャーを交えて言葉を返してくる。元気な奴。
「そりゃそうだけどよ、なんつーの? 生きてる実感ていうのかな、そんなもんが圧倒的に不足してるんだよ、この世の中には。学校ってのはその最たるものかもしれないな、うんそうだな……」
 俺が一人で納得していると真由が人差し指を俺の眼前に“ビシっ”と突き立て得意な顔で俺の目を真っ直ぐ見てきた。そして、
「勇一、恋しなさいよ。恋すればそんな人生だとか、世の中だとか、そんなくだらない悩みは一発で消え去るもんだよ!」
 言い切った。
「ん? 恋愛の悩みより人生の悩みのが軽いっての?」
「当たり前じゃない、そんなこと。しかも今は恋愛がめちゃくちゃ流行ってるしね」
「はぁ? なんだそれ? 恋愛は流行りとかじゃないだろ?」
「いやいや、今はテレビ見ても、音楽聴いてもほとんど恋愛のことばっかりだよ? 超流行ってるんだよ! ここで乗り遅れちゃダメだよ!」
真由のその言葉を聴いた途端、思わず吹き出してしまいタバコの煙が器官にでも入ったのかむせてしまった。
「ごほっ、ごほっ、ははは、いきなり笑わせんなよ?」 
「へへ、うけた?」
 真由がにこりと笑う。
「ごほっ。あぁ、笑ったよ。でもまぁ言われてみりゃ確かにそうかもなぁ。相当流行ってるよなぁ。でもさ、俺、恋愛とかいまいち熱くなれねぇんだよ。だって、将来なんてなんも見えねぇのに好きだとか、ずっと一緒にいようね〜、だとかさ。嘘くせぇったらありゃしねぇだろ? まぁ俺も似たようなこと言ったことあるけど……、まぁほらアレだ。みんな適当すぎるんだよ」
「はぁ〜、勇一は根本から間違ってるねぇ、その好きな人のために頑張って、未来を掴めばいいんだよ! 恋してから全てに本気になればいいの! 後乗せサクサクにね!」
「なんだそれ? なんか気持ち悪いなぁ」
 さっき聞いていた歌でもそんなことを言っていたのを思い出した。
「どこが気持ち悪いの? 勇一はひねくれすぎだよ」
「あぁ、それよく言われる。でもやっぱ、俺には好きとかよくわかんないんだよね。誰と付き合っても不満はメチャクチャ出てくるし、顔がかわいけりゃちょっとは気になるしな。きっと俺はね、誰でもよくて、誰でも嫌なんだよ」
「まったく、勇一は馬鹿だねぇ。深く考えずに好きなら好きでいいんだよ! それ以外に理由は要らないの!!」
そう大きな声で話す真由に冷めた口調で言ってやった。
「……お前B型だろ?」
「そ、そうだけど何よ?」
 真由がギクリとした顔をする。
「いや、別になんとなくそんな感じがしただけだよ」
 たたみ掛けるように俺はニヤニヤとしてみせた。
「あ、B型女差別!! 全国のB型女がそれにどれだけ苦しめられているかわかる? B型って言うだけで男の子が引くんだよ? この前もね―――」
 真由がまくし立てるようにくどくどとB型女の苦悩について語ってきた。どうでもいい話だがそれなりに楽しめた。
そのまましばらく真由と話しているうちにいつしか日も暮れ始めてきて、帰るころには不思議と理由のない苛立ちは小さくなり、感じなくなっていた。真由もたまには役に立つな。明日は学校に行けそうだ。


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