「はっはっは、勇一お前ホント馬鹿丸出しだな!」
 目の前の机に座るクラスメイト、藤間敬二がその机の対になっているイスに座っている俺を指差して馬鹿笑いしている。
敬二は二年になってから仲良くなった友達で、出会ってすぐに下ネタで意気投合した。
それは“今まで俺はこんなものでオナニーをしました”的な勝負だった。なんと敬二は中二のときにタウンページの“産婦人科”というページでヌいたらしい。タウンページでヌクこともさることながら“産婦人科”というキーワードをエロに持っていくことができるなんて……、と俺は敬二に一目置くようになった。俺は禁じ手である“お母さん”というキーワードを使ってその勝負で勝利を治めた。……いやいや、もちろんギャグだよ? 本当だよ? 信じてね?
ともかくそんなことが原因で、敬二とは仲良くなったんだ。敬二の性格を簡単に言うと“明るくて馬鹿”、そして俺のふざけた発言にいつでも的確なツッコミを入れてくれる、そんな男だ。成績だって俺とどっこいどっこい。
「いや、違うんだよ。馬鹿とかじゃなくて、しょうがなかったんだよ。だってその気はなかったんだぜ? 俺は屁をしようとしただけなんだよ……」
「だからって漏らしちゃダメだろ?」
「……俺は被害者だよ? 俺を責めるなんておかしいよ」
「いやいや、どっちかっつったら犯人だっての!」
「……確かにそういう穿った見方も出来るかもしれない。でもな、これだけはわかってくれ、俺は加害者であっても、同時に一番の被害者でもあるんだ。だって、俺がやったことだってのは事実だけど、そのことで一番悲しい目にあったのは俺だよ?」
 落ち込んだ素振りをしながら言った。
「……そうだな、ごめん、俺お前の気持ちをくんでやれなかったみたいだ。人の気持ちをわかろうとする、そんな心を忘れていたみたいだ……、勇一、すまなかったな……、俺弁護士失格だ……」
 目頭を押さえながら語る敬二。
ちょっと間を開けて二人で爆笑。会話には全く内容がない。
俺達は毎朝こんなふうに教室の窓側の席で仲間の何人かと本当に馬鹿な話をしている。こんなに馬鹿で無意味な話をしているんだけれど、こんな時間は大好きで、なんかとても大切なもののように感じたりするときだってある。
「ていうか勇一、ホント馬鹿だな。モテる要素が全くねぇ。そんなんだから彼女とか出来てもすぐに別れちまうんだよ」
「おいおい酷い事言うなよ。それとこれとは別問題だろ?」
そんな会話でさっきの幸介の事がふと気になった。チラッと幸介のほうを見てみると、机に顔を突っ伏していた。肩が微妙に震えている。
……泣いているのか?
俺の中にまたも罪の意識が芽生える。……俺は何もしてないのになぁ。世の中知らなきゃいいことがあるってよく言うけどそりゃ本当かもしれない。
「おい、勇一、なにぼーっとしてんだよ?」
「あ、わりわり」
そのとき、がららっと音を立てて教室の扉が開かれた。
「はーい、席につけよ〜」
担任の丈太郎先生が御馴染みのペタペタという足音をたてながら教室に入ってきた。
ふと壁に掛けてある時計に目をやると時間は八時半。
始業を告げるチャイムが鳴り始めた。輪条高校のチャイムは電子音のチャイム。ちょっと味気ない。俺の通っていた中学では本物のベルの音を録音していたものだったから、入学当初は相当違和感を感じたが、一ヶ月もすればすぐに慣れた。人間ってのは順応性に優れた動物なんだろう。そんな他愛もないことを考えながら敬二に“じゃっ”と一言、言って廊下側にある自分の席に向かった。クラスの皆も蜘蛛の子を散らすかのように一様に自分の席へと戻る。幸介の横を通るとちょうど袖で涙を拭って顔を上げたのが視界に入った。……さっきよりもダメージを受ける俺。今度はミッキーロークのストレート。
丈太郎先生は俺達全員が座りきる前に黒板の前に着いた。そして、
「はい、きりーつ、きょーつけー、れー」
なんて俺達が立とうが、礼をしなかろうが構わずかったるそうにそう言って、黒板の前のイスに腰を下ろす。そして、そのまま「眠いな」と一言。本当に眠そうな顔をしている。
「丈太郎先生また寝てないの〜?」
 学級委員の河合菜緒が笑いながら言う。
「あぁ、昨日ちょっとパソコンでエロサイト見てたら、思わず夢中になっちゃってよ、気付いたら鳥がチュンチュン鳴いてて、あ、朝だ! みたいな感じだったんだよなぁ。だからすげー眠いんだ」
 キーボードを叩くような仕種を交えながら丈太郎先生がそう言うとクラス中が笑いに包まれた。
「丈太郎先生、いい年なんだからエロサイトとか見るなよ」
 俺も笑いながら突っ込んだ。
「いい年って言うな! 俺はまだ二十七歳のバリバリのエロサイト盛りなんだよ! 言っとくけど俺は動画じゃなくて画像のほうが想像の余地があるから好きなんだ」
……んなこと誰も聞いてないっての。
「あ、そういや勇一、お前この前無断で学校サボったよな? だからお前、今日残って掃除な!」
「いや、すいません。俺、今日用があるんで」
「そっか、用があるならしょうがないな、じゃ、いいや」
「――いいのかよ!」
 またクラス中が笑いに包まれる。
俺は丈太郎先生が好きだ。
このやり取りだけで十分伝わるとは思うが、丈太郎先生はなんというか、およそ教師らしい教師とは言えない……というかとても社会人とは思えない。それは、もちろん年齢が二十七と若く、ルックスがそこそこいいということだけを言っているのではなくて、その人間性のことだ。
生徒に自分のことを名前で呼ばせたりするし、服装もおよそ人に物を教えるような格好ではない。今日だってTシャツにはデカデカと「ゴット・セイブ・ザ・クイーン」とカタカナで書いてある。マジックでだよ? 意味わかんない。そして、下は膝の破けたジーンズ。相当ラフな格好だ。しかも、さもポリシーかのように靴の踵はいつでも踏みつぶしている。
いったい他の教師たちにどう思われているんだろうか。ちょっと心配になったりもするが、きっと当の丈太郎先生自身はどう思われても気にはしないだろう。
そして、そんな格好をしているくせに、どこか筋が通っているというか、ふざけるときは生徒の誰よりもふざけ、怒るときはきっちりと怒るというような、そんな一面も持っている。他の人の良さそうなつまんない教師とは全然違う。その辺りが俺の好きな理由だろう。あと面白いしね。
二年のクラス分け表を見て、丈太郎先生のクラスだと知ったときは思わずガッツポーズをして喜んだもんだ。きっと時代が時代だったらカズダンスをしていたかもしれない。真由も幸介も敬二も慎ちゃんも菜緒もみどりも皆カズダンス気分だっただろう。それだけクラスの生徒ほとんどが丈太郎先生のことを慕っているんだ。しかも他のクラスの生徒からの人望だって厚いからたいしたものだよ。
「んじゃ出席とるな、みんないるか〜?」
「いまーす」
 全員で言う。
「んじゃ全員出席な」
と、いつもこんな調子。

丈太郎先生の歴史の授業をボケっと聞いていると俺のポケットに入れた携帯電話が着信をブルブルと伝えてきた。丈太郎先生の目を盗み携帯電話を確認するとメールが一件入っていた。

“今日の放課後、いつものハンバーガー屋さんで!”

真由からだった。朝ほど乗り気ではないのが正直な思いだ。それはきっとこの先、幸介の相談にも乗らなければいけないだろうし、そのときに言葉に詰まったり、妙な罪悪感を味あわなければならない、ってことが目に見えているからだ。きっとミッキーロークのラッシュを受けるだろう、下手したらジョージホアマンやマイクタイソンばりの奴らが出てくるかもしれない。……だけど約束は約束だ。
はぁ〜、しょうがねぇなぁ。
俺はそんな気持ちを隠し笑顔マークを付け「了解」と返信メールをした。

 学校が終わると一度家に帰えり、私服に着替えてから、愛ママチャリ“流星号”で真由との待ち合わせ場所のファーストフード店に向かった。
自転車で走りながらも、やはり幸介のことが気になっているため“面倒くせぇなぁ”なんてことを思ってしまう。それでも待ち合わせの時間に遅刻してしまいそうな俺はスピードをあげようとペダルをこぐ足に力を込め走り出した。こうなったら割高のチキンのハンバーガーを奢ってもらおう。ストロベリーシェーキもつけさせてやる。

急いでいるときに限って赤信号に引っかかってしまうのはなんでだろうか? これで三回連続の赤信号。全く嫌になる。
「勇一!!」
信号待ちをしていると、相当大きな声で後ろから声をかけられた。振り返るとそこには金髪やら、スキンヘッドやらの柄の悪い五、六人の集団が俺を見ていた。そして歩いてくる。誰だこいつら? なんで俺の名前知ってるんだろう?
「う〜っす、勇一! 何してんだよ?」
その中で一際ガタイのいい金髪の坊主頭が手を挙げて声を掛けてきた。よく見るとクラスメイトの橋田慎也だった。
「あっ、おっす、慎ちゃん!」
俺も手を上げて答える。
橋田慎也、輪条高校の二年の中で一番の不良、でも気のいい奴で俺とは中学からの付き合いだ。喧嘩は果てしなく強い。俺は一度だけ生で慎ちゃんの喧嘩を見たことがある。
中二のときだった。一緒にゲーゼンで遊んでいると高校生に因縁をつけられたんだ。その高校生は金髪ロン毛、いかにもって感じの奴で俺はちょっとビビッてた。
トイレに二人で連れてかれ、金をせびられた。そう、カツアゲってものだ。慎ちゃんがタメ口で拒否すると、相手は逆上して殴りかかってきた。そこからがものすごかった。なんと相手の殴りかかってくる拳をつかんだんだ。そんなの格闘漫画でしかみたことがない。 
そして間髪いれず殴り返した。慎ちゃんが殴ると相手の男はオーバーじゃなく数メートルは吹っ飛んだ。
当時から腕も太くて拳もメチャクチャデカかったけど、今は更にその倍にふくれちまっている。誰も絡んでくることなんてないだろう。しかも、そんな奴にもかかわらず勉強は俺より出来る。勉強好きの変わった不良で、性格は熱く男臭い。
慎ちゃんの周りにいる奴らもよく見たら中学の時の同級生だった。元同級生たちにも軽く声を掛けた。
「お出かけか?」
慎ちゃんが言う。
「あぁ、ちょっとな」
「女だろ?」
 慎ちゃんが小指を立てた。そう、慎ちゃんは何かにつけてちょっと古い。きっと購読している漫画のせいかなんかなのだろう。
「はは、まぁ一応、でも発展のないただの友達だよ」
俺も慎ちゃんに合わせ、ちょっと古めかしくため息をつくようなそぶりを見せる。
「またまた、よく言うよ」
「いやいや、これがマジなんだって、マジちょっとダルいくらいだよ」
 目の前を横切っていた車が止まった。信号が青になったようだ。
「あ、んじゃ、悪いけど俺、人待たせてるから、そろそろ行くわ」
「おう!! たまには俺等とも遊ぼうな!」
「ああ、誘ってくれよ、じゃ!」
慎ちゃんたちと別れ、急いでファーストフード店へと向かった。

時間にちょっとだけ遅れて約束の店に着くと真由はすでに席に座っていてポテトをつまんでいた。
「もう、遅いよ」
俺を見つけた真由は腕時計をしているわけではないのに手首をかざし、そこを指さしている。……こいつもちょっと古いな。
「いや、わりぃわりぃ、さっき槙ちゃんに会ってさ、ちょっと話してたんだよ」
 実際は信号待ちの間だけだけどね。真由は知らねぇんだ。こういうのは言った者勝ちだろう。
「まぁ、いいけどね。でも遅刻代と相談代が相殺されたからワリカンね! へへっ」
「え? まじで?」
「うん!」
 にっこりと笑っている。……なんだか納得いかない。だって俺は頼まれてきたのに、それを遅刻したからって理由で……、でも、まぁさすがの俺も“嫌だよ、奢ってよ”だなんてごねるのまでは気が引ける。ダサすぎる。しょうがねぇなぁ。……これは言われたもん負けだ。
「はいはい。わかりましたよ。んじゃ、俺、なんか買ってくるからちょっとこれ頼むな」
真由にバックを投げ渡して注文カウンターに向かった。
……一番安いセットにした。今月ちょっと苦しいんだ。

真由と話し始めて一時間ほどたっただろうか。
いや、参った、本当に参った。……真由が店の中にも関わらずものすごい勢いで泣いているんだ。ちょっと泣いてる、とかじゃない。ワンワンワンワンとそりゃもうすごい泣いているんだよ。話し始めたときは冗談なんかも絡めて時々笑いなんかも起こっていたんだけど、話し初めて少しすると真由はシクシク泣き始め、今ではもう“わんわんわわん♪ わんわんわわん♪”状態。いや、犬のおまわりさんは俺のほうだな。ともかく、それほど泣いているんだ。周りの奴らも俺たちに注目している。男女が向かい合って座っていて、女のほうが泣いていて、男が苦い顔。……きっと俺が泣かせているように見えるんだろうなぁ。
原因はもちろん幸介とのこと。聞いた話を要約すると、
“頼りなくて、傷つきやすくて、弱い幸介を支えることにもう疲れてしまった。別れたいとは思っていてもどう言えばいいのか……”
ってな感じだ。しかも、ちょっとでも気まずい雰囲気を出すとそれだけで幸介は泣いてしまうらしい。
幸介が真由に言った言葉の例をいくつか挙げてみると、
「学校には友達がいない。こんな学校来なきゃよかった」
真由はこの発言で泣いたらしい。この学校に来なかったら私とも出会えていないのに……、私はいったいなんなの? なんでそんなこと言うの? そう思って泣いたらしい。他にも、
「俺みたいに真面目に生きてると辛いよ」
そしてその後はお決まりの、
「死にたい」
真由はめちゃくちゃ悔しかったという。誰だって真剣に生きてるのに。嘆いているだけでなんのアクションも起こさないくせにこの人は何を偉そうに落ち込んでるのだろうか……、死にたいと嘆いてる人のどこを真面目に生きてると言えるのだろう、そう思ったという。そして、付き合っている人を“死にたい”だなんて思わせている自分も嫌になったという。他にも色々聞いたがその内容はほとんど似たり寄ったりだ。まぁ、確かに話を聞く限り幸介は情けない男だ。“そりゃキツイわなぁ……”これが率直な俺の感想。だけど、今はそんなことより、目の前でワンワン泣く真由をどうしたものか、ってのの方が重要な問題だ。
ひとしきり泣き終えたのか、真由の感情の高ぶりが少々治まった瞬間を見計らって声を掛けてみた。家庭教師役のAV女優並の優しい声でね。
「なぁ、真由。結局さ、簡単な話、もう好きじゃないってことだよな?」
「……ちょっと違う」
 メソメソした真由は萎びたポテトを食べるでもないのに摘まんだり放したりしている。
「違くないだろ。こういうのは結局好きか嫌いかどっちかしかないんじゃない?」
「どっちかじゃないから恋愛は難しいんだよ……、勇一はちゃんと恋愛したことないからわかんないんだろうけどさ」
 そして、萎びたポテトをプチってな感じでちぎった。……俺は頭がちょっとだけプチってな感じになった。
「はぁ? んじゃ真由は今ちゃんとした恋愛してるってのか? 好きでもない奴と付き合ってんのにか?」
 意地悪な響きを持った言葉で言ってしまった。
「違う! 好きじゃないってのじゃなくて、好きじゃないのかなって思うだけで、別れたいっていうのともちょっと違ってさ、付き合っていたくないだけなんだよ……」
「何言ってんのか全くわかんねぇけど?」
「……なによぉ、全然違うじゃんよぉ……」
 涙は止まったようだが、この言い方、どうやらスネ出したようだ。
「そうか? まぁいいけどさ。んじゃつまり付き合っていくのも別れを切り出すのもどっちも嫌だと? しかも、このままも嫌だってことな? んで俺にどんなアドバイスをして欲しいわけ?」
「…………」
 真由が黙り込んでしまった。言い方がキツすぎたか……? うん、ちょっと俺らしくなかったな。
「……あ、いやぁ、……あのさ、好きな奴でもいりゃもっと簡単な話なのにな?」
 今度は血の繋がらない姉役のAV女優並に優しく言ってやった。しかし、俺としてはフォローのつもりでこう言ったのだけど、この言葉を聞くと真由は黙るどころか“しゅん”と俯いてしまった。……一向にしゃべらない。
 泣かれるのも困るが、黙られるほうが困る。
さて、どうしようか……、う〜ん。
 黙り込む真由の前で俺も同じように黙り込んだ。数分後、こんな結論に辿り着いた。
“そうだな、俺が仲を取り持ったとはいえ、結局は真由と幸介の問題なんだ。基本的に俺があーだこーだと口出す問題ではないはずだ。相談は受けたが、別に何か言う必要もないだろう。きっと恋愛相談なんてものは話を聞くだけ聞いたら楽しい話でもして笑わせりゃいいんだ。だって、なんだかんだ言ったって決めるのも、動くのも自分なわけだし”
そう考えた俺は今日一日、真由を楽しませればそれでいいと思い、とりあえず店を出るよう促そうと決めた。
「なぁ、真由?」
 真由は相変わらず反応しない。さっきの俺の一言からしゃべらなくなってしまった。もしかしたら、好きな奴が他にいるのかもしれない。まぁ、でもそんなことは俺には関係ないことだ。マサイ族と眼鏡くらい関係ない話だ。
「なぁって!!」
「……なに?」
 大きな声で呼ぶとやっと小さな返事をした。視線は下を向いたままだ。
「どっか遊び行こう」
「そんな気分じゃないよ……」
 そう言って、なんと……、なんと真由のやつ顔をプイッと横に背けやがった!
……呆れたもんだ。俺は一応相談に乗ってって頼まれたからこうやってここにいるんだよ。真由がどんな言葉を言って欲しかったのかは知らないけど、ちょっときついこと言われたからって、こんな風な態度は筋違いだろ? 首筋と裏筋くらい筋違いだ。
……ったく、これだから、ちょっと顔のいい女は困るんだ。優しくされ馴れちまってるからな。だって、自分が悪くても味方してくれる男ってのが常に存在しちまうんだ。男は馬鹿だから下心がないとしても、かわいい女の子に優しくしている自分が好きだったりするし、下心があったら尚更だろうし。……あれ? 男が悪いなこれは。いやいや、でもそのことに自分で気付かないとダメだろ。よし、これで真由もちょっと悪い。
 真由は顔を横に背けたまま戻そうとしない。
……うん。もういいや。勝手にやらせてもらおう。このままじゃ俺がつまらない。そうだよ、ハンバーガーだって自腹なんだ。
「真由、ダメだ」
「何が?」
 窓から見える景色を見ながら言う。
「今から遊びに行く」
「だからそんな気分じゃないっての!」
 真由がやっとこっちを見た。俺は音を立てて立ち上がった。そんな真由を無視し早足ぎみにハンバーガーなどが乗っていたトレーを真由の分まで下げに行った。
「え? 勇一怒ったの?」
 俺の背中に真由が不安そうな声を掛ける。その言葉が聞こえているのか、いないのか、そんなそぶりでスタスタとトレー置き場に歩いていった。
 ゴミなどを捨てて戻ってくると真由は腫らした目で不安そうに俺を見てくる。ちょっと怒ったそぶりを見せただけで急に態度が変わった。真由は基本的には素直で、可愛らしい奴なんだ。扱いやすいもんだな。
そんな真由の腕をわざと強めに掴んだ。真由の体がビクッと震える。
「ご、ごめんね、私が相談頼んだのにね……」
「別に怒ってねぇよ。よし、今から遊びに行くぞ!」
 笑顔で言ってやった。
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