テレビがあまりにもつまらなすぎる。真由の言った通り本当に恋愛ブームのようだ。だって小学生みたいな女の子が「きつく抱きしめて」だなんて歌ってるんだよ? まったくどうかしちまってる。作詞家は今すぐ青少年育成系の条例に引っかかるべきだ。どこかにいるであろう「アイドルにしてあげる」なんてそそのかされて、引っかかったあげく、シャブ漬けにされちまった少女に対し責任を取れよ? ……まぁ、本当はそんなこと、どうでもいいんだ。ただイラついているだけさ。
ため息を一つつき、テレビを消して、代わりにコンポの再生ボタンを押した。そして、ベッドに大の字に寝転がり天井を見つめる。俺の大好きな、月夜の下をくだらねぇと呟いて冷めたツラして歩く歌が流れる。
 大きく息を吸い込んで吐き出す。もはやため息と呼吸の区別が難しいくらいの頻度でため息をついている。
なんだか何もやる気がしない。それどころか動くのも面倒だ。流れてくるリズムに身を委ねる。しばらくすると頭が空っぽになってきた。何かを考えたりするのも面倒だったので、ちょうど気が抜けていい感じだ。
 ……しかし、五分と経たずに枕元に置いてある携帯電話がメールの着信を伝えてきた。途端に気分が重くなる。ミッキーマウスの声なんかにしなきゃ良かったな。“メールがきたよ!!”だなんて明るい声が余計に俺をイラつかせる。
きっと真由からだろう。今日幸介に別れを伝えると言っていた。その結果報告のメールだろう。つまり俺は、また真由のこと、幸介のこと、面倒くさいことを死ぬほど考えなければならないんだ。
携帯電話を手に取り開いた。
“メールを一件受信しました”
青白い文字が待ち受け画像の上に表示されている。ボタンを押してメールボックスを開いた。
“神田幸介”青白い文字。
真由からじゃなかった。しかし、そのメールの内容は容易に予測がついた。さらに気分は重くなる。少し躊躇ったが、そのメールを開いた。

“今、真由と別れた。真由に言われて色々気付かされたよ。確かに俺は情けなかったかもしれない。俺は変わろうと思う。そして、真由に相応しい男になってまた真由にぶつかっていこうと思う。勇一、俺、頑張るから、だから、力になってくれ。お願いだよ。もう勇一しかいないからさ―――”

 長いメールだった。
 途中で読んでいられなくなり、携帯電話を枕元に放り投げた。その瞬間を見計らったようにまたもやミッキーマウスの声。
“メールが来たよ!”
「はぁ〜………」
メールを確認する気が起きない。……ミッキーマウスは同じことをしゃべり続ける。
……見たくねぇな。でも、そんなこと許されるはずがない。ちゃんと見なけりゃ何も進まないし……、しょうがねぇなぁ。
 再度、携帯電話を手に取り画面を開く。今度は予想通り真由からだった。

“今、コー君と別れたよ。でも、勇一のことは言えなかった。でも近いうちに必ず言うから、ちゃんと言うから。私は勇一が好きです。答えを聞かせてください。答えを急いでいるように見えるかもしれないけど、でも、私ももうはっきりさせないとどうかしてしまいそうだから、お願い、近いうちに会って下さい”

 事態は相当なところまで動いてしまっている。俺はいったいどうすればいいのだろう……。あのキスがなければここまでこじれる事はなかったかもしれないな、なんて思っても実際したわけだし、そんなこと今更考えても仕方ない。
 ……………。
「――ああああ! もう面倒くせぇ!!」
 枕を叩きながら怒鳴った。
 よし、もういい。そうだな、明日真由と話そう。そこで決めればいい。答えを持っていく事は出来ないけど、そこで俺も何らかの答えを出す。それしかない。いい加減うじうじ悩むのも飽きたし。真由だって行動したんだ。俺だって腹を括んなきゃ。
 真由に“明日、三時に学校の屋上で会おう”という短いメールを返した。
「――よし! 頑張れ柏原勇一!!」
 叫んだ。すると、
「勇一? なに騒いでんの?」
 階下から母親の声がした。……そういや、両親ともに家にいたんだった。
「え? あの、なんかさ、いきなり知らないおじさんが部屋にきて……」
「馬鹿じゃないの? 気持ち悪い事言わないの!」
「はい、ごめんさい」
 俺は静かに布団にくるまった。

 土曜日の学校。生徒はほとんどいなかった。グラウンドで野球部が練習してる。俺はタバコを吸いながら屋上で真由を待っていた。
 扉の開く音がした。私服姿の真由が歩いてくる。
「おっす、一人で柵乗り越えられたか?」
「うん、じゃなきゃここにいないでしょ?」
「それもそうだな……、あ、えっと、おはよ」
「へへ、おはよ…って、もう三時なんだね?」
 真由は終始笑顔。しかし、心なしか疲れたような顔をしている。
「……寝てないのか?」
「うん。ちょっとしか寝れなかった……。ね、勇一、上に行こう」
 真由の指差した場所は二人で夕日を見た場所だった。
「おう、そうすっか」
 俺が先に上り、真由に手を貸し引き上げる。そして、二人で縁に座った。この前と同じ位置。
 俺がタバコを吸い終えるまで二人とも無言だった。携帯灰皿に吸殻を入れると俺はゆっくりとしゃべり始めた。
「……あのさ真由、真由が俺に求めてる答えってのは今すぐ付き合うかどうかってこと?」
「うん。初めはそういうつもりで言ってた。でもね、少し考えたんだけどさ、もしも勇一がそう言ってくれたとしても、まだまだクリアしなきゃいけないことがあると思うから、すぐにってことじゃないかな。ただ、今、私のことをどう思ってるかってことを聞きたくて……」
「そうか、じゃあ、正直に言うな。……俺はまだ真由を好きだとは言い切れない」
「……そっか」
「でも、一番気になってる女ってことは確かなんだ。なんていうか、いいかげんに好きっていいたくないし、あと元々俺たちは仲が良すぎただろ? だから難しいんだ」
「……それってどういうことなの?」
「あぁ、んと、簡単に言えば、ゆっくりやっていこうって感じかな。俺ららしくさ。ちょっと曖昧な表現すぎてずるいか?」
「うん。すっごいずるい。でも、それって前向きに考えてくれるってことだよね?」
「まあ、そういうことだな。それでいいかな?」
「うん!」
 真由が嬉しそうに頷いた。こんな風に素直に嬉しそうにされると、自分でも意外だったが照れくさくなってしまった。だから、それから俺はずっとくだらない笑い話をしていた。それでも楽しくて、結局、空が暗くなりかけるまでひたすら馬鹿話をして笑った。真由もやっといつもの真由に戻ってきて、最後のほうは俺よりしゃべっていた。
「――んじゃ、そろそろ行くか!」
 話がひと段落ついた所で立ち上がって言った。ぐっと背のびをすると、体がパキパキと小さな音を立てた。運動不足かな……。
「うん、そだね! もう六時過ぎてるし帰ろっか!」
 真由も立ち上がって背伸びをする。お腹がチラッと見えて、俺はちょっとドキッとした。
 
 俺たちはエレベーターで一階まで降りた。がしゃんと音を立てて扉が開く。校内は薄暗く、しんと静まり返っていて少し不気味に感じた。
「あれ? 勇一、裏口から帰んないの?」
 エレベーターから出た俺が裏口に出るためのルートの反対方向に進んだため真由がそう聞いてきた。
「土曜は事務員も五時過ぎには帰るから、わざわざ裏口から帰ることもないだろ? 学校の中には俺らしかいないんだぜ?」
「あ、それもそうだね」
 そう言って歩き出すと真由が後ろからチョコチョコと着いてくる。無人の事務室の横を通り過ぎて、正面玄関にたどり着いた。
「勇一、また屋上行こうね!」
 俺の顔を覗き込むように言う。……う〜ん、ちょっとかわいい。
「あぁ、でも頻繁に行くわけにはいかないからな? 見つかったらきっとすげー説教されるだろうし」
そう言いながら俺はドアノブを握ってまわ………せなかった!!
「へ? あれ? あれ? ああああ!!」
 思わず大きな声を出してしまった。
「何? どうしたの?」
「………鍵閉まってる」
 振り返って言った。相当情けない顔をしているだろう。……だけど、そういやそうだ。事務員は俺たちがいる事知らないんだ。野球部もとっくに練習を終えているわけだし校内に誰もいなけりゃ鍵閉めて帰るだろう。
だけど、まぁ他の出口なら……。

 ……ダメだった。思いつく出口は全て行ってみたが、どこもしっかりと施錠されていた。
「……勇一? どうするの?」
 裏口に通じる出口の前で真由が聞く。
「う〜ん、どうしよ?」
 本当にどうしようか……、誰か呼ぶったって俺と真由のことを説明するのもかったるそうだしなぁ……。俺がそうやって悩みこんでいると、真由の顔がパッと輝いた。
「何? なんか思いついたか?」
「へへへ、私天才かもしれない。……一階の教室の窓から出ればいいんじゃない?」
 真由が腰に手をあてがい“えっへん”ってな感じで言いはなった。うん。確かにその通りだ。
「おお! さすが真由!! 賢い! 頭の回転が速い! 秀才! 胸が小さい! 天才!」
「ちょ、ちょっと、勇一、今、間にとんでもなく失礼なこと言ってなかった?」
「言ってない言ってない! 気にすんなって、早く行こうぜ」
 俺たちはそんな風に笑いながら意気揚々と一年生の教室に向かった。

……もっとダメだった。
一階のどの教室も外側から鍵が閉められる構造になっていたことを初めて知った。それにしてもただの学校なのにどうしてこんなにもセキュリティーが万全なんだ? あまりにも万全すぎやしないか? 小学校じゃないんだ。暴漢が入り込んでくるってことにそこまで注意を払うこともないだろ?
……てことは、まさか今日、俺たちを閉じ込めるために?
――校長の陰謀……?
ちくしょう、校長の野郎、怪しいと思ってたんだ……、なんて、ふざけている場合じゃないな……。
「はぁ〜、どうしたもんかなぁ…」
 肩を落として振り返るとなぜか真由はニッコリ笑っていた。いったいこんな状況でなんで笑えるんだろうか……?
「あのね、私んちね、今日ちょうど両親旅行行ってるんだ、へへへっ」
 その声もなんだか楽しそうな響きだ。
「は? だからなんだよ? いったい両親の旅行が何だって言うんだよ?」
 真由がもう一度「へへへ」と笑ってそして、
「学校に泊まっちゃお!」
 なんて言いやがった。その目は“しめしめ”と語っている。……忘れてた。最近の真由は悩んでばっかりでおとなしかったけど、元々はこういう奴だったんだ。天真爛漫、興味津々、元気印のやんちゃ娘……。
「……まじで言ってるの?」
「んじゃ、ガラスでも割って帰るの?」
「いや、それはちょっと……」
「他にいい案は?」
「う〜んと……」
 何も思い浮かばなかった。
「へへへっ、んじゃ決定!」
 真由人差し指をビシッと立てて言う。やっぱちょっと古い。

 それから、俺と真由は自分達の教室に移動して、そこでず〜っとペチャクチャと話していた。真由の好きなバンドは全く俺のタイプじゃなかった。なんで化粧してるような男がかっこいいんだろうか? さっぱり理解できない。男なんてみんなオナニーばっかしてんのになぁ、……いや、ばっかってことはないか。
夕飯は真由のロッカーに入っていたスナック菓子なんかで済ました。それでも腹いっぱいになることが出来た。よくもまぁこんなに持っているもんだ。
序々に外が暗くなるとそれに輪を掛けるように校舎内は暗くなるのが早かった。なんだか“あっ”という間に教室内はかなり暗くなってしまった。
「……なんか夜は暗くて怖いね? 電気も点けられないし……」
 真由が教室内を見渡して言った。
 おかしな話だ。俺たちは不可抗力で閉じ込められてしまったのに、見つかってはいけないから電気を点けることは許されない。なんか矛盾しているような気がする。
だけど、俺がこの状況に少しわくわくしてしまっているのも事実だ。下心だとかそんな事ではなくて、夜の学校に無断で泊まる、そんな状況に“男の子”の部分が刺激されているんだ。トムソーヤ、ハックルベリーフィン、十五少年漂流記、そんな気分。
俺でさえ結構ドキドキしてるんだから……、やっぱりだ。真由のほうを見ると 真由は暗くて怖いなんて言いながら表情は全く逆のことを物語っていた。
「そういえばどこで寝る?」
 そんな表情のまま聞いてきた。
「う〜ん、そうだな……、保健室にしよっか? ベッドあるし」
「さすが勇一!! それいいね! 楽しそう!」
 俺たちは食べ散らかしたお菓子の袋なんかを片付け、校内が真っ暗になる前に保健室に移動した。
保健室にはちょうど二つベッドがあった。
「なぁ、真由一緒に寝るか? にひひ」
 わざといやらしく笑ってみた。
「あ、何そのいやらしい顔。だめだかんね。エッチはやっぱ付き合ってからでしょ?」
「はは、わかってるって、んじゃ、俺はこっちで寝るな」
 俺は右側のベッドに上がって薄いシーツを被った。でも、真由はじっとしていて動こうとしない。
「どうした?」
「……あのさ、あの……、エッチはなしだけど、どうせなら一緒に寝たいかな……、ちょっと怖いし……」
 声が照れていることをあからさまに物語っていた。月明かりの頼りない明るさじゃ確認できないけど、きっと顔は真っ赤なんだろう。なんかすげーかわいいな……、やばい俺相当マジになってるかもしれない。……いや、もうまずくないのか。マジになってもいいんだよな?
「んじゃ、こっち来いよ」
「へへへ、なんかちょっと恥ずかしいな」
 なんて言いながらも真由がゆっくり俺のくるまっているシーツに入ってきた。
二人で顔を合わせて横なる。
室内は暗いが時間はまだ早い。寝てない真由はともかく俺が眠いはずない。
「真由、もう眠いか?」
「ううん、なんか目が冴えちゃった。ねぇ、勇一、なんか話してよ」
「なんかって?」
「楽しい話!」
 真由が笑った。いくら暗いとは言ってもこれだけ近いとさすがに表情までしっかり確認できる。
……はっきり言って、すげーかわいい。
男は好きになるとその女がかわいく見えるもんなのかもしれない。ちょっと前まで意識すらしてなかったのに、今は、めちゃくちゃ可愛らしくて、恥ずかしながら俺はメチャクチャ胸が高鳴っている。
「……あのさ、エッチはなしでもさ、キスはありだよな?」
 思わず言ってしまった。
「え? ダメなんじゃないかな……」
「だってもう一回してるし、俺すごいキスしたいし……、真由だってキスしたいだろ?」
 真由を見る。肯定も否定もしない。
……きっとOKのサインだろう。
 俺はゆっくりと唇を寄せていった。真由は避けようとしない。
唇が触れた。真由は静かに受け入れてくれた。
もう一度。
三度目。
四度目のキスからは回数を数える事が出来ないくらい何度も何度もキスをした。
そして、いつしか長い時間のキス。
唇を合わせながら“永遠”なんて言葉を信じてしまうほどの時間がすぎる。
真由のほうから舌を入れて絡めてきた。
俺もそれに答える。
体が熱い。体だけじゃない。頭の中もなんだか熱帯雨林のような暑さだ。
……俺はもう止まれない。
真由の頭のほうからだんだん手を下にずらし胸を触った。
「あっ、ダメだって……」
 俺との境界線の危うくなっている唇から真由の声が聞こえた。だけど、俺はもちろん止まらない。いや、すでに止める気もない。だって、だって俺はもう……。
「真由?」
「な、何?」
 真由の目をしっかり見た。
「……大好きだよ」
 そして、キスをした。唇を離してもう一度真由の目を見る。
「……ホントに?」
 泣きそうな顔をしている。
「あぁ、こんな気持ちは生まれて初めてだ。断言できる……、俺は真由が好きだよ」
 抱きしめた。
「嬉しい」
 真由の涙を頬で感じた。俺は真由の服の中に手を入れて直接柔らかい肌に触れた。その体温で俺はさらに興奮する。
「――で、でも私たちまだ……付き合ってるわけじゃ……」
「俺は真由好きだし、真由は俺が好きだろ? 他に何が必要?」
「勇一……」
 真由から俺を抱きしめてきた。
「何もいらないよな?」
「うん……、私も勇一大好き。勇一がいれば他に何もいらないよ」
 俺は真由を壊してしまうんじゃないかと心配しながらも壊してしまうほど強く抱きしめた。力の加減なんて出来なかったんだ。真由も俺を締め付ける。
 なんだかどろどろに溶けてしまいそう。
 俺たちは眠るまでひたすら抱き合い、触れ合い、求め合った。

 ……不思議な感覚だった。性欲と愛情が興奮と快楽に溶け、そこに全てがあるような、そんな夜だった。こんな夜はもう二度と訪れないだろう。

□□□□

 目が覚めた。辺りを見渡す。真っ白な保健室。
勇一が隣で小さな寝息を立てている。時計に目をやった。六時半ちょっと前、時間にはまだ余裕がある。勇一の寝顔をゆっくり見た。
……かわいい。
寝顔を見ているだけでこんなに幸せな気分になるなんて不思議なものだ。
「……う…ん…」
 勇一が寝返りをうって私に背中を向けた。その拍子に薄いシーツがめくれ上がり私の裸があらわになった。誰も見ているわけではないのに妙に恥ずかしくなって両手で胸を隠してしまう。
勇一が今起きてしまって明るいところで体を見られるのは恥ずかしい。よし、服は着よう。恥じらいこそ女の子のたしなみってやつよね!
そう思って下着を探したけど見当たらない。まったく、私の下着をどこにやったんだ。その場で見渡して探すとベッドの下にブラがあって、パンツは隣のベッドにあった。いったいどうやったらあんなところまでパンツが飛ぶのか……。私はベッドから降りて早足でパンツを取りに行った。その場でイソイソと履く。こうやって下着を履いていると勇一とエッチをしたってことをものすごく実感した。
……本当に幸せな夜だったな。満たされるって言うのはああいうことなんだろうな。
 そのとき大きな音で携帯電話からメロディが鳴り響き始めた。私の携帯電話だ。眠る前にセットした目覚ましが鳴ったんだ。
私は急いでパンツをはいて勇一の居るベッドに走って潜り込んだ。
 その瞬間に違うメロディが流れた。今度は勇一の携帯電話からだ。
「……う〜ん」
 ゆっくりと勇一が目を開けた。そして私を見る。
「あ、おはよ、真由」
「――お、おはよ!」
「ん? なんでお前息切れしてんの?」
「え? してないよ?」
 肩で息をしながら行っても説得力はない。でもパンツを取りに行ったなんて言うのは恥ずかしいし……。
「あぁ! お前もしかして、一人エッ――」
 何を言われるか予想のついた私は勇一が言い切る前に頭をはたいてやった。当然だ。
「ばか! あほ! 最低!」
「なんだよ、冗談だよ」
「冗談でも好きな女の子にそんなこと言う?」
「ははは、そりゃそうだな、ごめんごめん、はっはっは」
 まったくこのアホは……。心でそう呟いたけどなんかそんな勇一がかわいらしく感じた。
「勇一!」
「なに?」
「キスして!」
 勇一は何も言わすにキスをしてくれた。
「へへへ、勇一大好きだよ!」
「俺もだよ」
 勇一に引っ付いた。……あったかい。
「俺も何?」
 勇一の顔を見上げて言った。
「は〜、お前はほんとに女の子丸出しだなぁ……」
 勇一がちょっと困った顔して笑った。
「言ってよ!」
「……大好きだよ」
 目を見て言ってくれた。幸せがこみ上げてくる。今度は私からキスをした。
「私ね、エッチすごい嬉しかったよ」
「あ! それすごい嬉しい。エッチして嬉しいとか言われたの初めてだよ」
「本当? でも私本当に嬉しかったよ」
「なぁ、もう一回しよっか?」
 言うのが先か、手が先か、勇一の手が私のパンツに触れた。
「あ、ダメだよ。だって早くしないと誰か来ちゃうんでしょ?」
「それまでにさ……、ん? 真由なんでパンツ履いてるの?」
「だって恥ずかしいから……」
「でも、俺、朝に真由の裸見ようと思って隣のベッドに投げといたのに?」
 ……飽きれる。なんでこんな馬鹿が好きになったんだ私は……。でも、でも大好きだからしょうがないんだなこれは。
「勇一のば〜か!」
 そう言って抱きついた。もうどうしようもないってくらい勇一が好きだ。
 
結局そんなこんなしてる間にエッチしてる時間はなくなり私たちは服を着て屋上へと戻った。
そして上から二人で覗き込むように事務員が来るの確認した。
「スパイ大作戦だな?」
 勇一はまるで子供みたいだ。やっぱりかわいい。
「んじゃ、帰るか?」
「うん!」
 私は勇一の手を取って歩き出そうとしたが勇一は動かなかった。
「どしたの?」
「……なぁ、俺さ、明日にでも幸介と会うよ」
 勇一の顔は真剣そのものだった。勇一のこんな顔は始めて見た。なんだか緊張する。
「ちゃんと言う」
「……今日の事も?」
「あぁ、それはどうしようか……」
「うん、勇一にまかせる。私もうどんなことになっても勇一がいればいいし」
 言った途端、勇一が抱きしめてくれた。
 死ぬまで勇一といたい、心の底から思った。勇一の子供生んで、かわいい名前付けて…、考えすぎかな、でもそうやって考えるのも楽しい。
 やっぱり恋愛って偉大だ。流行にはちゃんと乗っとくべきね。

次へ


戻る